【3355】 ○ エドガー・H・シャイン/ピーター・A・シャイン (野津智子:訳) 『謙虚なリーダーシップ―1人のリーダーに依存しない組織をつくる』 (2020/04 英治出版) ★★★★

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○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

「1人の人間として相手を見る」謙虚なリーダーシップを提唱。従来理論の前段階か。

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謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』['20年]

 昨年['23年]1月に亡くなったエドガー・H・シャイン(1928-2023/94歳没)らによる本書は、これまで人と組織の研究に大きな影響を与えてきた著者らが、「謙虚なリーダーシップ」という新たなリーダーシップのコンセプトを提唱するとともに、その実践の在り方を示したものです。リーダーシップに対する新しいアプローチとして、従来の業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチを提唱しています。

 まず、第1章で、リーダーとフォロワーの関係は、
 ・レベルマイナス1(全く人間味のない、支配と強制の関係)、
 ・レベル1(単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離を保った」支援関係)、
 ・レベル2(友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係)、
 ・レベル3(感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係)
の4つのレベルがあるとしています。そして、ルールと役割に依存するレベル1の関係から、もっと個人的なレベル2の関係に基づくリーダーシップ・モデルが新たに必要になってきているとしています。その理由として、
 1.課題の複雑さが、加速的に増している
 2.現代の経営文化は、近視眼的で、目に入らない領域があり、自己破壊的である
 3.職業的、社会的価値観は世代交代する
の3つを挙げています。そして、謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係であり、この関係は、率直に話し、信頼し合うことが基盤となり、グループの関係がまだレベル2になっていないなら、謙虚なリーダーはまず、グループのなかで信頼を確立し、率直な発言を促す必要があるとしています。

 第2章では、関係の4つのレベル改めて解説し、単なる業務上の役割に基づく関係は、「相手を一個人として見る」レベル2の関係にシフトする必要があるとしています。

 第3章から第5章にかけては、謙虚なリーダーシップの成功事例として、シンガポールの政治リーダーらが謙虚なリーダーシップにより、国の経済開発を変革した事例、バージニアの医療センターのCEOが同センターのあらゆる人とレベル2の関係を築いて抜本的な改革を成し遂げた事例、アメリカ海軍という厳密なヒエラルキー下においてさえ、レベル2の協働が成果を生んだの事例の3つが紹介されています。

 第6章では、謙虚なリーダーシップが育たなかったり、行き詰まったり、成功しなかった事例を紹介し、謙虚なリーダーシップを阻害する要因となるヒエラルキーや意図せぬ結果について解説しています。

 第7章では、「パーソニゼーション」(personization)という概念、グループ・センスメーキング、チーム学習といった謙虚なリーダーシップの主要要素を今まさに推し進めているいくつかの傾向について解説するとともに、謙虚なリーダーシップは「英雄のようなリーダーシップ」の対極にあり、包括的で適応力のある組織デザインを可能にすることで変化の激しい時でも組織の崩壊を回避できる、未来型のリーダーシップであるとしています。

 第8章では、謙虚なリーダーシップの本質は、対人関係およびグループ・ダイナミクスにひたすら集中し続けることであり、これによって、より広範な経営文化についての考えを推し進められるかもしれないとしています。

 第9章では、謙虚なリーダーシップとは、弱さを受け容れ、レベル2のつながりを通じて、レジリエンシー(しなやかに適応する力)を育みことであるとしています。また、さらなる読書、自己分析、スキル習得を通して、自分自身のリーダーシップに磨きをかけることでできるとしています。

 英雄的な1人のリーダーに頼る組織は時代の変化に対応できず、重要なのは、相互に信頼し、率直に本音を伝え合う「組織文化」であって、そのような組織文化を築くためには、役割やそれに基づく関係ではなく、「1人の人間として相手を見る(パーソニゼーション)」という(個人的には、この言葉が"謙虚"ということに最もリンクした)、普段の絶え間ない実践が不可欠であるというのが、本書の趣旨となるかと思います。

 タイトルから「サーバント・リーダーシップ」のようなものを想像したりもしましたが、読んでみて、「サーバント・リーダーシップ」や「変革型リーダーシップ」といった一般的なリーダーシップ理論の前段階として、本書で言う謙虚なリーダーシップがあるべきなのだと思いました。第9章で、参考になる書籍として、ダグラス・マグレガーの『企業の人間的側面』からフレデリック・ラルーの『ティール組織』まで10冊の書籍が紹介されていることも、その表れかと思います。それらに読み進むのもよいでしょう。

 謙虚なリーダーシップというのは、本書で言う日本人のリーダーシップ観に馴染みやすく、フォロワーにも受け容れられやすいのではないでしょうか。むしろ、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチというのは、本書を読んでなくとも、多くの日本人リーダーが実践していることのようにも思いました。

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